『キャストとは何か?』という問い

ただのバイトじゃねぇか、と答えるのは簡単である。が、しかし。
そもそも質問が漠然としすぎている。設問者の自意識が透けて見えるようだ。が、しかし。


リアルとは何か?という問い。
この問いに対してジャンバラヤ動物園は既に回答している。
園内の売店で扱っている「メイキング・オブ・ジャンバラヤ動物園」というオールカラーの、2000円以上する書物がある。
その中の一文に、正確なワーディングは忘れたが。
「『リアル』と本物・実物とは必ずしも一致しない」「本物をそのまま持ち出すよりも演出された偽物を出した方が良い場合がある」
と、受け取れる箇所があるのである。


つまり、ジャンバラヤ的には演出されたリアルさを「リアル」として考えるということになる。
某自宅マンションから飛び降りちゃった俳優が、ピアニストの役をやる時はピアノの練習をするのではなく、
ピアノをうまく弾いているように見せる練習をする、というようなことを言ったが、まさしくこれと通じている。


こうなると問題は、どう見えるか、という部分に尽きる。
「どう見えるか」、つまり初めから相手(ジャンバラヤの場合はお客さん)を想定して考えなくてはならない。

例えば、70歳の老人の役をやるとして、役づくりにおいては、あらゆる意味でステレオタイプを志向しなければならないわけだ。
お客さんの中にある「老人」観を推測し(自己の内に既にあるものだが)、徹底的にそれをなぞらなくてはならない。
エンターテイメントとは受け手の想像力、価値観の範囲の中で展開されるものだ。
その範囲を超えた所で行われるものは別の言葉で表現される(小説ならたとえば純文学、のように)。
身近な話をすると、俺の祖父は80近くになってスポーツカーを購入するような高気圧ボーイだが、そんな人物設定が使えないことは言うまでもない。


俺はずっと、昭和30年代を正確に表現しようとするのは不可能だと思ってきた。
人物を正確にそうやったらお客さんとは深刻なディスコミュニケーションに陥るであろう。避けなければならない。
悲惨な結末を迎えないために、俺や同僚らは現代人的な思考をし、お客様の心中を推し量り行動する。外見は昔の人だが。
もちろん中の人が現代人なのだから30年代人など正確に出来るはずもない
また、正確に表現したとして、一体どれだけの人が「正確に」受け取り、そして感動するのか。

おそらく一番ハッキリした違いは「笑い」への態度だろう。
現在、お客さんを笑わせているのは現代的な笑いである。昔と今でどこがどう違うのかと言われても知らない。分からない。
しかし確信を持って言える。違うのである。正確さは失われるわけだ。


(続く)