里に光、家に暴力(一)

世界の果てというものが存在するだろうか?世界イコール地球として、それは丸い。球型をしている。つまり世界の果てを目指してどんどん歩いていったとき、そりゃ海とか山とかが行く手を阻むけどおいといて、辿り着くのは果てではなく元いた場所ということになる。
どこまで行っても最終的には同じところに帰結するループ。世界の果ては存在しないのか。物事に終わりはないのか。誰かが死んでも世界は続いていくのか。それとも今いるところが既に世界の果てなのか。どっちにしたって僕はここではないどこか、簡潔に言うならネバーランド、へは行けないというわけだ。
だからひとまず僕は今いる場所でがんばろうと思った。これを思ったのは幼稚園に通っていたときで、4歳だか5歳のときということになる。以来10年以上、僕は目の前の課題をやり続けることに全神経を注ぎ、それなりの結果を残してきた。いや、それなり以上の結果と言うべきだろう。さまざまなコンクール、トーナメント、総当たり戦、コンペで僕は勝って勝って勝ちまくった。戦いの途上、多くの人々との出会い、別れがあった。6期目に入った市長とは今でも電子メールのやり取りをしているし、僕を拉致しようとした地元ヤクザのおっちゃんはガード下で刺殺された。初めてのポルノ体験となった「平凡パンチ強奪事件」でも多くの逮捕者、死傷者が出た。それらのことについても語らなければならない。
誰もが僕の実力に驚き、笑ったり挑戦したり「あーあー」と言いながら耳を塞いだりした。誰しもが僕と何らかの形で関わることを避けられなかった。僕はこの町の太陽だった。僕の光に当たらないと体調が悪くなるのだ。だから嫌でも家から出て、降り注ぐエナジーを一日に何分かは受けなければならなかった。しかし僕は太陽であると同時に竜巻でもあったし、雹でもあった。僕が歩いた後に無事であった物など皆無で、唯一婦女子の方と、ドラッグストアーだけが原形をとどめていた。用があるのはその2つだけだった。
僕は名前を書かれた者を死亡させることが出来るノートを所持している。「デスノート」と呼んでいるが、とりあえず質屋では買い取ってくれなかった。

今いるココを世界の果てと思うか、世界の終わりなどない、と思うか、僕はまだ決めかねているが、そんなんどっちでもいいよとツッコんでくれるガールフレンドはいる。名前は糸井。昨日出来たのだ。彼女いる歴1日だ。早速コンドームを買わなくてはならないが、近所のドラッグストアーは女性店員しか雇っていないのか、いつ行ってもレジに女性しかいない。非常に都合の悪いことである。僕の顔を知らない者はこの町にいない。竜巻太陽だから。ポスターにもなっているくらいだ(「許しません!ウリとドラッグと二人乗り」)。そんな僕がコンドームを買い求めている所を見られでもしたら・・・しかも女性に。想像するだけで膝がガクガクしてくる。かつて、フランスはベルサイユ宮殿にたむろしていた貴婦人たちはそこいらで随意に用便していたという。床に広がった糞をなるべく踏まないように、という設計思想で生まれたのがハイヒールだ、なんて逸話もある。市長に言って条例を制定してもらうか。もちろんこの町の市民をフランスの貴婦人にしようというものだ。どうせフランスとかのキーワードには弱いだろうし。糞まみれのドラッグストアーでコンドーム買っても何も恥ずかしいことない。これしかない。俺は自分のソーテックを立ち上げようとした、ところに糸井から着信があった。(続く)