「お前は俺のオンリーワンなんや」〜就職活動のその二

ash20042004-07-29

前回は面接一次を売り込めてない自己PRや本からパクッた話で乗り切ってしまった所まで。
ここの会社は連絡関係がルーズ?で、「合否は書面で二週間後、次の面接は1ヶ月近くあと」と当日言うにもかかわらず毎度一週間以内に返事が来る。
ルーズというより連絡が徹底されていないとか変更がしょっちゅうあるとか、そういう感じか。
で、「二週間かぁ待つの長いなぁ、これで落ちてたら後がますます詰まってくるなぁ、面接も遅いし」なんて言って、
何社か同時進行させりゃいいんだろうけど頭がパンクしちゃいそうだから止して、結局一点突破の道を選ぶ。
俺は突破者。などと言ってみたものの、要するに色々周る気が起きないだけなのだった。


悶々としながらゼミに行ったり未だに取れてない必修の授業に出たりして、
「あれみんな案外(就職)決まってないものだな」と思って気持ちを楽にしたり「一年坊はアホやな、でも俺もあんなだったんか」って過去を振り返ったり、
何か大事な事が向こうからやってくるのを待つ時になりがちな、心がとても動きやすい状態になってるのが自分でも分かって、
予定より早く一週間後に通知が届いてるのを見つけたとき、どうやってリアクションすればいいか戸惑った。
クス玉が割れるべき時に割れなくてどうでもいい時に割れる感覚と言ったらいいのか。
俺は心のどこかでまだ悶々としているつもりだったらしい。
気分が盛り上がらないので親が見守る前で封筒を開けることができず(リアクションに不安があったため)、
トイレに入って開封した。オー受かってるよと呟いて。


一ヵ月後のはずだった面接二次も実際は二週間後(連絡時の「三週間後」)で、
なーんだよこの会社と思いつつも俺は喜んで東京に向かった。
最寄駅で降りて、コンビニで伊藤園かどっかの「ジャスミン緑茶」を買う。
酷い出来だった筆記試験の時に普段買わないのを思いつきで買って通って、面接一次の時も思いつきで買って通ったので、
これはホンモノだと思って、二次の日にも買う事にしていたのだ。
ジンクスや占いや血液型診断などはハッキリ言って信じないが、ジャスミンの独特な匂いに意味があるような気がして。


驚くべきことに面接二次を終えたとき、「これは受かったんじゃないか?」と思った。
まったく落とされる要素がないとまで思った。
信じられないことだ。バイトの面接の打率は当時1割程度だった俺が。その後1割を切った俺が。
上に行くほど偉いさんが出てくるというのが「面接」のお約束である。
俺は偉いさんにかなり耐性が出来ているのかもしれない。調子に乗りすぎだ。
というか、最初から選考する気がないようだった。したのは世間話に近いものだった。
「終身雇用・年功序列が崩壊したとされる現在の日本で、あなたはどういう職業観を持っているか?」
文章にするとカタイが、こんくらいどこででも聞かれる事なので相対的には難しい質問じゃない。
これを面接官がニコニコしながら、さらに「抽象的でもいいよ」などと言いながら、最大限の余裕をこちらに与える形で答えさせてくれるのだ。
相手が笑顔なら気持ちに余裕が出来る。俺も笑顔の練習をしようと思う。
「他にどんなところを受けているの?」
これは車屋はメーカー毎にあるわけで、さらにそのメーカーの内でのチャンネルってのもあるわけで、
必ずと言っていいほど聞かれるらしい。
二回面接をやって、いずれも複数で受けたのだが、どいつもこいつもよその販社の内定をもらっていると答えていた。
そんな中俺は「御社とそのメーカーしか受けておりません」と宣言。
メーカーはとっくの昔に書類落ちしているので・・・えへ、これ落ちたらどうしようかなーなんて。
振り返ると「オンリーワン宣言」はかなり効いたはずだ。面接官は憐憫とか半べそとか深い理解とか、そういう感情を示す表情をしてくれたのだ。
作戦でもなんでもなく事実そうなんだから、別に後ろめたいことも何もない。
むしろ自分を追い込んで少ないパフォーマンスを最大に引き出したんだ、と良い方に取る。
さらに祖父のRX-8のディーラーが最近この販社に取り込まれたことを知っていたのでそれもネタとして織り込んでおく。
「そんなことまで知ってるの?」発言。これはもうもらったんじゃないですか社長。と思ったってしょうがないだろう。


一緒に面接を受けた人と駅まで歩く道すがら。
「受かってます、内定をもらっている俺が言うんだから間違いない」と言われる。
やっぱり君もそう思うかね。俺もこれで落ちてたら混乱してしまうよ。


そしてお約束の一週間後、封筒が届く。少し厚い。紙が二枚以上入っている気がする。
おっ、これは薄いと落ちてて厚いと受かっている法則からすると受かってるんじゃないか?
今回は居間で開封することができた。内定通知と入社承諾書と返信用封筒が入っていた。


先日行った懇親会に二次で一緒だった彼の姿があったかどうか、俺は覚えていない。
いくつか受けてて第一志望は別のところだったからそっちに行ったのだろう。と祈る。


そして現在。俺は内定を得て落ち着きながら、困惑してもいる。
4年オーケーのバイトでもやっぱり落とされることや何で内定が出たのかとか、そういうしょうもないことでクヨクヨしている。
一つ終えるとまた一つ問題が出てくる。
出てくるのか、あるいは自分でつくっているのか。それはハッキリ言って分からない。
人間退屈が一番こたえるというのは結構真理を突いていて、
それに孤独(感)が加わると途方に暮れて樹海に行ったり浴衣の紐を梁にかけたりするようになる。
俺はそんなことはしないが、する気にならないのは臆病なのと自分で無意識に問題をでっち上げているからじゃないかという気もしている。
喜ばしいことでも悩ましいことでも「死んじゃいてー!」って死ぬ気もないのに叫びたくなることでも何でも。
叶わぬ恋に身を焦がす自分というシチュエーションを楽しむ自分。
夜中に突然呼び出されて車を走らせる自分って何かドラマの登場人物みたいと思う自分。
居酒屋でタバコを吸いながらゼミの同僚と世間話をする自分というシチュエーションに萌えてる自分。


そういう自分を冷ややかに見つめる視線があって、その一方でステディー持ちのくせに心躍るような片思いを純粋に苦しんでいる自分もまた俺の中にいるわけで、
もうまとまりもなくなってきたんで終わろうと思うけど、
これから社会に出るまでの数ヶ月間を俺は俺なりに困惑しながら自分にとって良い結果を得るために生きて行きます、ってことにしとく。