俺が死んだ時の言葉

「俺はケイちゃんのことが、好きで、でも勇気がなくてあまり話しかけたりとかできないんだけど、
ケイちゃんのこともっと知りたくて、それで、もし嫌じゃなかったら、今度、どっか行かない?」


台風に揺らぐ築10年のプレハブ(ありえないプレハブでありえない)の雨漏りする廊下で全然萌えない形でいきなり俺に告白されたケイちゃんはしかし、


「ごめん好きな人いるんだ」


と、すんげーサラッと、それこそ髪をかき上げる動作のついで、みたいな感じで言葉を発した。
それを聞いてもちろん落胆した。しないわけがない。
ただ、嫌な顔ひとつせず、俺の言葉をちゃんと聞いて受け止めた上での「サラッと返し」だったので、俺は失恋したのに救われたような気持ちにもなった。
この日、俺は言ってしまえば振られるために彼女に自分の気持ちを、わかりやすい言葉に直して告げたのだった。
誰にでも答えの分かる揃いすぎた状況証拠。ほぼ二日にいっぺんのペースで現れる男。
口コミもあり、「どうもケイちゃん目当てで来てるらしいよ。」と全員が知るのにそう時間はかからなかった。


そういう目で見られながら俺は一人で飲食店に通い続け、明るく話に花を咲かすこともなく、目の前のケイちゃんに話しかけることもできず、
自分の無力をひたすら呪い、もどかしい思いで気が狂いそう、ってこともなかったけど心に負荷がずんずん溜まっていくのが自覚できて、
ついに臨界点というか、とにかく何か動きをという気持ちが、このまま毎日何も話さぬままコーヒーやアルコールを飲んで帰って、
それで何になるというんだ、という気持ちがMAXを迎えたのだった。
しかし、まったく脈のないのは明らかだった。当たり前だ。だって暗いもの。
人間誰だっていつでも笑っていたい。楽しくありたい。共感したい。
俺のケイちゃんに対して表出されるあらゆる要素がこれに当てはまらないのは分かっていて、
分かっていながら止められないのが恋心というものでもあって、
好きな人相手だと緊張して話せなくなる、という自分の性質がこれほど腹立たしい、ムカつく、と思ったのは初めてだった。


しかし重圧から逃れるように俺はケイちゃんに思いを吐き出してしまった。
もう無理なのであった。脈がないのにハッキリ気持ちに区切りをつけず、悶々としているのに疲れたのだ。
そしてやっぱり振られた。ケイちゃんを見送った後、最初に心に起きたのは清清しさだった。
今後は先輩に誘われた時だけにしよう、飲食店に行くのは。と決めた。