なぜ思い出は優しいのだろうか。
気楽だった日々。時間が無限に感じられた日々。全てがゆっくりと回っていた日々。
いつかは終わる日々であった。
今そこに戻ろうとしても現実が壁になり果たせず、もし仮に何もかも捨てて無理に戻ったとしても、そこは既に元の場所ではなくなってしまっている。
決定的に失われたものの大きさを意識すると不安は頂点に達し、これから人生の最終コーナーまで数十年と続くぐるぐるループを思うと絶望感が心を侵食する。
人は何かをなさねば人とは認められない。
だから人は今自分が立っている所で踏ん張って、自分の出来る精一杯をやらなければならない。
本当はそうなのだけれども、張っていた気がふと途切れる瞬間、ものすごい勢いで噴き出してくる記憶に翻弄され、センチメンタルの極致に達する。
感覚的にはホームシックみたいなものだ。ただ帰るべき家はもうなくなってしまっている。