やっぱり創作しようとすると緊張するの巻

ash20042004-08-15

前日、といっても日付が変わって三時間半経っていたから俺の意識の中での前日ということになるけれど、
ギリギリになって先方の女の子ちゃん(渡辺徹fromスーパーマリオクラブ)が今日の待ち合わせ時間を三十分遅らせてほしいと言ってきたので
その三十分に何の意味があるのかよく分からなかったが承諾した。予告ホームランは知っているが予告寝坊って線は?


しかし如何せん連絡を受けたのが床に入って寝ようかしらというところで、八時間半後に目覚めた時、その記憶はおかしな形で俺の頭に定着していた。
たしかに三時三十分という数字は覚えていて、家の者に「二時間くらい出てくるよ」と言うんだけどその時は三時三十分から小一時間、
女の子ちゃん(ニセ関西弁の渡辺徹)と喫茶っぽい場で時を過ごそう、と考えている。
なのにヤフー!路線図で電車の時間を調べる段になって、到着時刻指定で検索をかけることが出来るのだけど、そこに入れた数字は十五時ちょうど。


初めて降りる相模大野駅改札内にある男子トイレで、やたらにたくさん並んだ小便器を見て、ここは大きな駅なんだなと思いながら用を足し始めた瞬間、
時間を間違えていることに思いが至ってちょっと脱力した。尿の軌道が震えてワインディング。
段取りを考える時と出発を考える時に使うアタマは違うのか、
それにしても俺は悪い頭脳をお持ちだと思ってのろのろとトイレを後に絶望しながら、
三十分何をして過ごせばいいかと考え、困った時は本屋だと思って駅ビルに飛び込んだ。
そこはエスカレーターが点在してて一階上がるとまたエスカレーターを探さなければならないという奇妙な作りのビルで、
六階だか七階だかまで登って、俺が去年バイトの面接を受けて落ちた書店のチェーン店に入る(打率三割→二割)。
小癪なポップで装飾された店内を、万引き犯と間違われないように慎重に探索していく。
最近俺はめっきりノベルス付いていて、棚に並んだ清涼院流水の「コズミック」他を読んでみたい衝動に駆られるのを一生懸命抑える。万引きはいけませんよ。
なんか中学の頃とか通ぶってビキマンとか言って得意げなやついたよね。それ俺。でも万引きしてるフリをしたかっただけで窃盗は働いていない。
俺が盗ったことのあるのは友達のガンダム型ゴム人形と祖母の小銭入れからの五百円だけだ。


2ちゃんねるで酷評を受けていた「思想なんかいらない生活」を立ち読みして時間を潰して三時二十五分になったのを確認して下に降りる。
またエスカレーターを探して時間に遅れないか不安になるけどロスなく行くことができる。
改札前で待ち合わせていたのでその近くにある太い柱によりかかって、ちょっと世間と対峙してる男の表情を演出しつつ周りを見回して時を過ごす。
どんな表情をして待っていればいいのか、俺はいつも困る。
上を見ると天井が高くなっていて、余計な遮蔽物もないしそもそも床面積が広いから開放感はよその駅より五割増しくらいで、床はスカした薄い色のタイル張り。
そんなおされな空気の中を相模大野の住民たちが行き交う。目が合ったりして気まずい。
早く来い。
目を泳がせていると立っている所から一番奥、T字路の突き当たりにこげ茶色を基調としたカフェーが見えて、
女の子ちゃん(上沼恵美子の弟子渡辺徹)との段取り構築はばっちり上手くいきそうだ。が本人が来ない。


しかし何だって大学生というのはそんなに忙しいのだろう。今日という日を実現するのにも何だかんだで丸一週間かかっているのだ。
彼女もまたその辺の学生さんのようにアルバイトをしていて、それが終わったらしい午前三時過ぎにメールが入ってきたりするのを見ると何とも言えない気持ちになる。
今日俺のために割いてくれた時間もバイトに出勤する前の数十分なのだ。
三十分からさらに七分くらい遅れて彼女が二つ先の柱と談笑する相模大野住民の間から現れたときちょっと手を振ってくれて、
それで遅刻とか(そもそも俺が時間を間違えたから長く待つことになったのであって、彼女は七分遅れただけなのだ)俺の中では全部オッケーになってしまう。


俺とその女の子ちゃん(コージー冨田に真似される渡辺徹)は大学のゼミで一緒になって、客観的に言えば別に特に親しいわけでもよく話したりしたわけでもないが、
それでも俺の中ではよく話した方の部類に入る人で、合宿で彼女のカメラによって撮られた一葉の写真を「くれ」って言えるくらいには慣れた相手だった。
彼女の方も俺のことをキモメン扱いせず、「先輩私のツボですよ」などと言ってくれ、快く焼き増しくれて。
といっても共通の話題はゼミくらいのもので、結局合宿の話や研究室の話や担当教授の話に落ち着かざるをえない。


「あのゼミはみんな個人で参加したのが良かったですよ。はじめ、私以外仲良くてグループになってたらどうしようかと思ってた」
まったく同感だ。いつも学生食堂で騒いでいるような連中がそのテンション・メンバーのままゼミに来ていたらと考えるとぞっとしない。
グループでわいわいやっているのを外から見ていると、彼らが面白がって笑っていることも大抵すごく寒い。
それは自分がその仲良しの輪に入れないことに苛立ちや不安を感じているのもあるけれど、
最大の理由はそのグループ結成から現在に至るまでの物語を共有していないから根本的に面白くないのである。
昨日ここでめちゃイケについて書いた、「流れの中の笑い」というのは広義の内輪ウケのことなのだ。どれだけ物語を共有しておくかがキモになる。
今年の春のそのゼミは、応募時に誰かとつるんでなかったという人がほとんどで、よって物語もほぼゼロで、関係を一からつくっていける感じだったのだ。


「タバコもらっていい?」「どうぞどうぞ」
俺は本当に萌えのツボ・秘孔をたくさん持っている。秘孔ったって簡単に押されちゃうけど。
その女の子ちゃん(昔はイケメン俳優だったはずの渡辺徹)で言えば、頼めば嫌な顔ひとつせずタバコをくれる所や、
そのタバコがさわやか風味のメンソールであること(煙を吸い込むとスーッとして脳が開いていく感じが起こる。実際には血管は閉じている)、
俺を「先輩」と呼ぶこと、確信犯でテキトーって感じの発言をなさること、いつもTシャツである、などがそうだ。


写真は俺の人生でおそらく初めてであろう構図、女性二人を脇に俺センターでニヤニヤ、というもので、
多分これから生きててももうないんじゃないかと思ったから欲しかったのだ。
俺の立っている地面をかすかに揺らがせることができた。自己満か。
だが自己満以外に何があるだろう。客観的に見て良いとされることが絶対に本人にとっても良いことなのかといえばノーだ。
自分がどう思うかが一番大事だ。俺は自分のこととなると途端にポジティブになるところがある。
マン・ツー・マン、正確にはマン・ツー・ウーマンだが、そうやって女の子と会うことが俺にとっては既に素晴らしい慶事なのだ。


三十分くらいお茶をして世間話をすると女の子ちゃん(なんでやねーんなんでやねん。)がバイトに行かないといけない時間になる。
扇風機が我々に無計画に風を浴びせるので卓の上の灰皿から灰が飛んで隣の老女に降りかかっている。
老女を無視して我々は席を立って。


「じゃあまた」「はーいお疲れさまでした」


どうでもいいけど渡辺徹が幼女を呼ぶ時「女の子ちゃん」って言うことを知ってる人はどれくらいいるんだろうか。
なんでやねーんなんでやねーん。